私は古い教室の窓辺にいた。
懐かしい夢だ。
学友とキャンバスを並べて、忙しく制作の準備をしている。
私が床に敷いていたそのキャンバスは、悲しいほどボロボロで、下地が剥がれていた。
所々干からびたテープの残骸が張り付いている。
私は爪でそれを剥がしながら、くだらない話で友人と笑い合った。
「あ、虫。」友人が窓の下を指差す。
親指ほどの、琥珀色の蜘蛛。そして同じ位の大きさをした、赤い蟻。
追い払うと、蜘蛛はどこかへ行ってしまった。
蟻は、そこを動かなかった。細い脚や触覚を動かしながら、じっと私の方を向いたまま。
ふと、足元のキャンバスをめくってみる。
「ひゃっ」友人が小さな悲鳴をあげた。
キャンバスの裏面には、小さな蟻が沢山くっついていた。
よく見れば白い繭が、びっしりと張り付いている。
私はゾッとしながら、それをヘラで削ぎ落としていく。小さな蟻はよじってもがき、バラバラと床に落ち、後から後から増えていく…。
私は気分の悪いまま目を覚ました。
休日の朝。午前6時半。
ベッドの下には、無数の小さな蟻の死骸があるはずだ。
寝転がりながらスマートフォンでニュースを確認していると、『あなたの深層心理テスト』という項目を見つけた。
『あなたの嫌いな人の、嫌いな部分を思い浮かべてください』
私は一番面倒な知人を思い浮かべると、全部、と答えた。
『それはあなた自身の嫌いな部分です』
私は体を起こすと、鏡の前で裸になった。
とても醜い体に見えた。
目の端に汚れた靴が転がっていた。
私はそれが無性に欲しくなった。
それは鏡の向こうにあった。
fin.